wa-syuが独自取材で日本ワインを掘り下げ!『Fattoria AL FIORE』醸造家・目黒浩敬さん

添加物は一切加えず、ブドウのポテンシャルを引き出す野生酵母でのワイン造り。『Fattoria AL FIORE』の自然派醸造家・目黒さんにインタビュー

人が喜んでくれることが何よりも好き。そのツールが、たまたま料理やワインだった

『Fattoria AL FIORE』醸造家・目黒浩敬さんのもとには、その人柄と、日本ワインへの情熱を慕って、世界中からファンが訪れます。日本の自然ワインの造り手の中でもとりわけ注目を集めている目黒さんは、宮城県柴田郡川崎町で、廃校になった小学校の体育館を改修してワイナリーを開設。ブドウを育て、ワインにしていくという営みを、地域と一体となって続けています。そんな目黒さんと『Fattoria AL FIORE』のこれまでと、そしてこれからのヴィジョンについて聞きました。

『Fattoria AL FIORE』というワイナリーの礎となったのは、かつて仙台市内で目黒さんが2005年から10年間ほど開いていたイタリアンレストラン。“一輪の花”を意味する『AL FIORE』という名のそのお店は、自家採種で作った固定種の野菜を使うなど、こだわりの食体験を提案する先鋭的な存在として人気を博していました。 実は目黒さんはレストランを始める前、教職についていたという異色の経歴の持ち主。「人を喜ばせることが何よりも好きで、その手段として食の世界に足を踏み入れたんです。でもレストランをやっていたときに、“このままでは食が危ないな”っていう危機感を抱いて。便利な世の中になる一方で、食は簡素化してしまい、寂しいものになっている。人間らしく豊かに暮らして行くということは、やはり豊かな時間や、豊かな食があってこそ。だから、レストランで食事をする"特別な日"だけではなく、家庭で食卓を囲む"日常の食"の豊かさをたくさんの人に知ってもらいたい。そう考えて、それまでのレストランという箱を取り払って、外に飛び出そうと考えたんです(目黒さん)」。

人の真似ではなく、誰もやっていないことをやろうと決意。被災地での炊き出しを経て、ワイナリー設立へ

レストランの次に目黒さんが選んだ"人を喜ばせること"は、ブドウの栽培とワイン造りでした。2014年にブドウを植え始め、委託醸造を開始。2015年にはレストラン『AL FIORE』を閉店、川崎町に移り、新たに『Fattoria AL FIORE(Fattoriaはイタリア語で農場の意)』を設立したのは2018年のことです。「東日本大震災のあとはいったん店を閉めて、ずっと炊き出しをやっていたんです。それで、そのうち農園を始めようと思って貯めていたお金も全部そこで使ってしまって。また改めて5年間お金を貯めて、やっと始めることができました。僕はちょっとあまのじゃくなところがあって、誰かがやってるのを真似するのもあんまり好きではなくて。ワイナリー設立を考え始めた時には、宮城県には他にまだワイナリーはなくて、それなら自分がやろう、と思ったんです(目黒さん)」。

僕自身は残念ながらアルコールに弱いので、お酒はあまり飲めない。もともとは日本でワインを作っていることも知らなかったくらいなのですが、レストランをやる中でいろいろと勉強させてもらって、ワインの面白さにはハマってきましたね。もちろん食の大切さを考えるなら、食材を作るための農業をやる、という選択肢もあったかもしれない。でもこれからは農業の担い手が減っていくので、大手の集約型農業が増えていくと思いますし、その中で個人が利益を出して自立していくのは難しい。採算が取れる手段は…と模索すると、やっぱり農業+加工というスタイルが強いなと思ったんです。ワインやチーズなどはその一例。それも、加工も含めた農業=ワイナリーを選んだ理由のひとつです(目黒さん)」。

廃校をリノベーションした特別な空間。幸運な出会いが、『Fattoria AL FIORE』の世界観を具現化

そうしてできあがったワイナリーは、なんと廃校になった小学校の体育館を改装した空間。一歩足を踏み入れるだけで『Fattoria AL FIORE』の世界観に浸れるような、特別な場所です。「ワイナリーを設立するために土地を探していたのですが、並行して食のプロデュース関係の仕事もやっていて。あるとき、川崎町の旧支倉小学校を産直ショップやレストランとして活用しようという計画があり、視察に行きました。そうしたら施設を作る予定の校舎の隣に体育館があって、空いているから使えるよ、という感じで。タイミングよく借りることができたんです(目黒さん)」。 奇跡的に素晴らしい環境を引き寄せた目黒さんは、地域の人々をはじめ多くの人の協力を得てこの空間をリノベーション。ワイナリーの代表であり建築家でもあるパートナー、目黒礼奈さんのセンスもいかんなく発揮され、訪れる人を驚かせる心地よいもてなしの空間が生まれました。「大きなコンセプトや本質的な部分のビジョンは、たぶん僕も礼奈も同じだと思います。今は子供も小さいので、ワイン造りのほうはどうしても僕がやる部分が大きくなっていますが…。あとは他の新しいスタッフも入れてって、ちょっとずつ仕事をシェアしていけるようになるといいな、と思っています(目黒さん)」。

自社圃場だけでなく、地域ぐるみでのブドウ栽培を大切に。地場産業の収益が上がり、過疎化にも歯止めをかけるモデル

除草剤や化学肥料を使わない自社のブドウ栽培に力を入れるだけではなく、地域のブドウ畑を買い支えることに重点を置いている『Fattoria AL FIORE』。「宮城は、まだブドウ栽培の実績がそれほど多くはないし、特にワイン用ブドウに特化したノウハウが不足していました。でも僕らの位置してるところは比較的山形県に近い。だから実績のあるブドウ産地、南陽市や高畠町などによく行って、農家さんと情報共有させてもらったり、原料を買わせてもらったりして。一緒に毎年話し合いながら、改善できるところはしていきました」。

「僕らは、持ち込まれた果実をただ買い付ける、というようなことはしていません。買い入れているブドウも全て自分たちで収穫させてもらっているんです。栽培や収穫のタイミングも、全てコミュニケーションを取りながらベテラン農家さんと一緒に決めていて。そうすることで、自社圃場以上に質の高いブドウが購入原料で賄えますし、産地のブドウの買い支えを続けることもできます(目黒さん)」。美味しいブドウを農家と共につくることで、美味しいワインができ、収益も上がる。結果的に耕作放棄地が減って、過疎化にも歯止めがかかるという好循環が生まれます。地域の振興につながる、新しいモデルが出来上がっているのです。

素材と向き合い、感性を磨いて、何も加えない醸造を心がけて。

目黒さんの造るワインは、すべて野生酵母による発酵。酸化防止剤などの添加物も加えていませんし、補糖や補酸なども一切していません。醸造の際には実際にブドウを食べてみて、どういう構成要素が強いのかを舌で判断し、造るワインの方向性をコンダクターのように見定めているという目黒さん。「全て自分たちの手で収穫した健全なブドウだから、添加物を一切加えずに醸造できるんです。野生酵母の働きぐあいを見て、それぞれのブドウがどういう方向に進みたいのか見極めて、そのために何ができるかを考えます」。

「ワインは発酵中、劇的に変化しますし、発酵後もゆっくりと変わっていきます。自然な醸造だからといって、ほったらかしておけばよいということではない。何日漬け込むかとか、どのくらい樽に入れておくかなどは、日々の様子を見てないとわからないというか…。やっぱり子育てと一緒だと思うんです。子供の様子って、毎日見ていて気にかけてるからこそ、親は細かい変化に気がつくことができる。あれ、なんか今日は様子がおかしいな?っていうのは、明確な基準があるわけではないし、理由が答えられるものではない。だから発酵がどのようになっていくのかは、本来は計画して進めていけるものではないと思うんです」。

「ただ1つだけ、ワインを作る上できちんと決めていることがあります。僕たちのワインは、それぞれの農家さんとの繋がりがものすごく強い。だからそのブドウの育ての親に、嘘のないワインにしたいなと思うんです。その農家さんが、自分のブドウでできたワインを飲んだ時に、あ、これは俺のマスカット・ベーリーAだとか、これは俺のメルローだねとか、ちゃんとそこが分かるワインにする、ということは、心がけています」。

ブドウ生産者や、ワイナリー準備中の人たちからの委託醸造も受け入れ。そして次なるヴィジョンに向けて、進めていることとは?

『Fattoria AL FIORE』では、ブドウ生産者からのブドウや、今後ワイナリーを開設しようと計画している人などを受け入れ、委託醸造も請け負っています。「小規模農家さんはこだわってブドウを作っていても、なかなか果実のみを販売しているだけでは採算がとれないんです。けれどもそれを僕らがワインにして戻してあげれば、彼らはそのワインを売ることで収益が増えるわけです。あとは、今後ワイナリーを作りたいっていう人たちからの委託醸造も、毎年受け入れています(目黒さん)」。さまざまな人がワイナリーに集まってつながり、目黒さんの想いも、食やワインの範疇を超えて広がり続けています。 「今、家を立てているんですが、薪窯もあってパンを焼いたりもできる予定。だから、そういうところでいろいろワークショップなどができるようにしたいです。そもそも学校っていう場所でワイナリーをやっている訳ですし、食だけではなくて、暮らしのところや生きる術までみんなで学ぶことができる場があるといいなと思っていて。時間がかかることなんですが、玲奈とちょっとずつでも進めていきたいですね。そうすることで、耕作放棄と過疎化が進んでいたこの地を、ふたたび人が集まる場所にしたい。さらにそのノウハウをモデル化することができたら、別の土地に持って行って、同じように再現することもできると思っています」。

Fattoria AL FIORE 宮城県柴田郡川崎町支倉塩沢:(株)Meglot

Fattoria AL FIORE(ファットリア アルフィオーレ/ふぁっとりあ あるふぃおーれ)は、代表の目黒浩敬(めぐろひろたか)氏が2002年に仙台市内に開いたイタリアンレストラン「AL FIORE(一輪の花の意)」が礎になっています。「AL FIORE」は2015からワイン造りを始めて、2018年にはワイナリー「Fattoria AL FIORE」へと進化。Fattoria=農場という言葉の通り、自社畑や買い入れブドウを大切にしながら、何も加えない自然派ワイン造りを続けています。また、廃校になった小学校の体育館を改修して使用しているワイナリーには、多くの人の想いが詰まっています。

▼「Fattoria AL FIOREのアイテムリスト」はこちら

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