初入荷!宮城『千夢ワイナリー』

宮城県・石巻市で新規就農した『千夢ワイナリー』が、ワイナリー開設前に委託醸造で造ったワインをいち早く入荷!醸造家が語る、その誕生秘話とは?

早くも注目を集める『千夢(せんのゆめ)ワイナリー』。醸造家・吉田丈一(よしだたけひと)さんにインタビュー!

石巻市が地元である醸造家の吉田丈一さんとゼネラルマネジャーの高橋美雪(たかはしみゆき)さんを中心に活動を開始した『千夢(せんのゆめ)ワイナリー』。2021年より『Fattoria AL FIORE』での委託醸造を開始し、その真摯なものづくりへの情熱と哲学は、早くも美味しいワインとなって結実。日本ワイン界の注目を集めながら、畑作りとワイナリーの建設に向けて邁進しています。そんな吉田さんに、ワイン造りを始めたバックストーリーを聞きました。
「高校時代は、学校に行ったり行かなかったり、という生活だったのですが、テストの日なのに家にいる僕を、わざわざ迎えに来てくれる人がいたりした。そういった周囲の人の助けがあって、4年間かかってやっと高校を卒業できたんです。でも、協力してくれた人たちみんなに、ぜんぜん恩返しできていなかったなあ、と思って、ずっとモヤモヤが残っていました。卒業後は建設業界に入っていったのですが、そこでちゃんと地域の受け皿になるような仕事ができれば、いつかみんなへの恩返しになるんじゃないか、と思うようになって。それを第一目標にして、20年余り働いてきたんです」。

東日本大震災を経て、42歳の時に新潟で建設会社を立ち上げたのも、ずっと持ち続けていた思いを形にするためだった、という吉田さん。「基本は建設業なのですが、"たくさんの人に貢献することで恩返しをしよう、1000人の夢を叶えていこう"というコンセプトがベースにあって、『千台ファーム』という農業法人も立ち上げました。何でも自分たちでやっていこうというイメージもあり、自給自足の農業に挑戦したいと思っていましたが、自分自身はあまりお酒が飲めないということもあり、当初はワイナリーをやるということは考えもしませんでした」。

素晴らしい絶景との出会いと、この景観を守りたいという熱意。ここからスタートできることを模索して。

やがて仕事で地元の石巻市に戻ってきた吉田さんは、素晴らしい農地と運命的な出会いをする。「石巻市牡鹿半島の最南端にある、海を目の前にした畑で元々は放牧地として使われていたそう。行ってみると目の前がぱっと開けて、水平線が見えて、ものすごくキレイな場所。まさに絶景で、ともかくこの風景を守りたい、と強く思ったんです。だから、まずこの土地ありきで、後からここで何ができるのかを考えはじめたんですよ」と笑う吉田さん。「ゼネラルマネジャーの高橋と調べているうちに、斜面だから果樹がいいね、その中でもブドウという選択肢があるね、ということが判ってきました。そうしたらその日のうちに、知り合いのつてを辿って『Fattoria AL FIORE』の醸造家、目黒浩敬さんとつながることができたんです。そして約1カ月後、復興支援のイベントで目黒さんが石巻の近くに来る機会があり、タイミング良くお会いすることができました」。

『Fattoria AL FIORE』の醸造家、目黒さんとの出会いで、はじめてナチュラルワインに触れて。すぐに醸造を学び始める

『Fattoria AL FIORE』の醸造家・目黒さんは、自然派ワインのオピニオン・リーダーとしても知られる存在。そのワインの味と目黒さんの人柄を慕って、宮城県内はもちろん、世界中からさまざまな人が訪れています。委託醸造も請け負っており、これからワイナリーを始めたいと考えている人たちへの支援や、地域の活性化にも大きく貢献している、日本ワイン界のキーパーソンでもあります。「2021年の7月に始めて畑と出会って、同年の8月に目黒さんと実際にお話をして、9月から『Fattoria AL FIORE』でワイン造りを学び始めたという、むちゃくちゃなスピードで始まって(笑)。目黒さんに会うまで、ナチュラルワインという存在も知りませんでした。今は目黒さんのもとに通って委託醸造という形でワイン造りを学びながら、山形県上山市や高畠市のレジェンドとも言うべき素晴らしいブドウ農家さんをお手伝いしつつ、自社の畑を開墾してブドウの苗を植え始めているところです」と語る吉田さん。同じブドウや同じ設備を使って醸造しても、造る人でまったく違ったワインができあがる、ということも目黒さんから学んだそう。「酒造免許を取得して、2025年の7月くらいを目標に、石巻で自分たちの醸造所を開設できるように準備をしています。ワイナリーの予定地は廃校になった中学校で、ここも海を臨む素晴らしい場所なんですよ(吉田さん)」。

不耕起の有機栽培、野生酵母発酵のブドウ&ワインを目指して。

「自社の畑に関しては、完全に不耕起の有機栽培にしようとしています。実は最初、農業の知識が何もなかったとき、重機でかなり深くまで土をひっくり返してしまったらその一角は雑草すら元気がなくなってしまって。地中のバランスが崩れてしまったんだと思います。もともとの土壌を分析したところ、必要な要素は揃っていて、phのバランスも良い。だから植樹の際も必要な穴を掘るだけにして、もみ殻を炭化させた"もみ殻くん炭"や、菜種の油かすを入れ、ちょっと貝殻を置くくらいにしたところ、想定の3倍くらい伸びたので、このやり方はこの土地には合っているんじゃないかな、と思っています。自社でのブドウ栽培に関しては、山形のプロフェッショナルの方々からの教えを活かして、ピノ・ノワール、シャルドネ、メルロー、マスカット・ベーリーA、ソービニョン・ブランの栽培に挑戦しています(吉田さん)」。ワイン造りは、『Fattoria AL FIORE』での委託醸造らしく、野生酵母での発酵、SO2不使用だそう。「栽培でも醸造でも、美味しいワインになってくださいって思うと、その意思が伝わると思っています。また、ワインはブドウのポテンシャルを超えない、と考えていて。美味しくないブドウは、美味しくないワインにしかならない。もしも醸造する自分がしくじったら、よいブドウも良いワインにはならない。それを大事に考えています」。

画家であるお母さんの作品をラベルに。情緒あふれる日本画で、オリジナルの和をアピール!

独特の風情があるラベルは、実は吉田さんのご母堂、吉田輝(よしだてる)さんが描いた日本画。県内での受賞歴もある輝さんは、昭和13年生まれの86歳です。「母が描いたこのフクロウの画は、自分も大好きな一枚で、特別なデラウェアで仕立てたオレンジワイン『織 -Ori- 2022』のラベルにしました。
できあがったワインのイメージに合わせて絵を描いてもらうこともあるし、描きためた作品の中から選んでラベルにすることもあります。ワイナリーには、この原画を展示して、来た人に見ていただくギャラリーを作る構想もあるんですよ。写真を使ったラベルは、ゼネラルマネジャーの高橋がデザインしています(吉田さん)」。

織 -Ori- 2022/5,390yen(税込)

「例えば『彩 -Sai-2022』は、酸が強くてレモンスカッシュみたいな、キリッと冷やして飲みたいスパークリングワイン。ラベルも金魚の日本画で、夏祭りで涼んでいるような味わいを表現しています。
また、よく熟したヴェルデレー (セイベル9110)を瓶内二次発酵で仕立てた微発泡のスパークリングワイン『燦 -San- 2022』は、シュワシュワでトロピカルな味わいなので、暖色系のお花のラベルなんです(吉田さん)」。ラベルから味わいを探ってみるのも楽しい飲み方です。

写真左から:
彩 -Sai- 2022/3,960yen(税込)
燦 -San- 2022/3,960yen(税込)

ゼネラルマネジャー、高橋さんがラベルをデザインした『空 -Sora- 2022』は、デラウェア、シャルドネ、スチューベン、ネオマスカットによる白ワイン。スチューベンをブランド・ノ・ワールに仕立てた香りや、ハチミツレモンのようなとろける甘さ、酸が魅力!「非常にバランスが良い味わいです。ラベルは、上を向いて歩いて欲しい、という想いを込めてデザインしています。バターを使ったお料理などにぴったりです(高橋さん)」。『wa-syu』おすすめのペアリングは、牡蠣のグラタンです。

空 -Sora- 2022/3,960yen(税込)

千人が抱く、千の夢を実現するツールがワイン。地元から発信することで、震災からの復興も表現したい

震災前、実家は漁業を営んでいたという吉田さん。「流通に乗せられない、採った人しか食べられないような部位とか個体とかがあるんですが、それがものすごく美味しい。だからいつもそれと比べてしまうので、どこへ行ってもなかなか満足できないんです」と語ります。そんな得がたい舌を持った吉田さんが考えるワインとは?
「日本には素晴らしい自然が残っているのに、それに気づいてる人が少ないように思います。でもワインは、その良さを表現することができるツール。ワイン単体でも、海の幸、山の幸との組み合わせでも表現できますよね。また、海外へのアクションを起こしやすいのも、ワインの良さじゃないかと思っています。できれば、"石巻のワインと食です"っていうふうに横のつながりも一緒にアピールできれば地元のためにもなるので、"千の夢を叶える"ことにもつながります。そういったスタイルが日本の各地で確立してきたら、ちょっと面白いことになるんじゃないかな、と思っています(吉田さん)」。
ゼネラルマネジャーの高橋さんにとっても、石巻は生まれ育った土地。「震災では、ともかく前を向いて行くしかなかったんですが、すごくいろいろな人から助けてもらった、という想いがあります。ワインをツールとして、自分たちが地元から発信し、みなさんにこういうふうに元気になりましたよ、っていう報告をしたいです!(高橋さん)」

千夢(せんのゆめ)ワイナリー

宮城県・石巻市の『千夢ワイナリー』は、醸造家の吉田丈一(よしだたけひと)氏とゼネラルマネジャーの高橋美雪(たかはしみゆき)氏を中心に活動を開始。2021年より牡鹿半島の最南端にある自社畑の開墾を始め、『Fattoria AL FIORE』での委託醸造をスタート。現在は山形県の上山市や高畠市のこだわりの生産者からブドウを買い入れ、丁寧にワイン造りを手がけている。日本画を使ったラベルのシリーズは、吉田氏の母である吉田輝(よしだてる)氏の作品。

▼「千夢ワイナリーのアイテムリスト」はこちら

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