シリーズ・日本ワインが生まれるところ。北海道『ドメーヌ・イチ』上田一郎氏にインタビュー!

化学肥料や除草剤などを一切使用せずにブドウを栽培。“幻の自然派ワイン”とも称される、『ドメーヌ・イチ』の真のオーガニックワインとは?

日本初のオーガニック認証ワインを誕生させた『ベリーベリーファーム&ワイナリー』が、進化して『ドメーヌ・イチ』へ。

北海道・仁木町で農場とワイナリーを営む上田一郎(うえだいちろう)さんは、日本で初めてのオーガニックワインを造った醸造家です。もともと有機栽培の果樹栽培などに取り組んできた上田さんは、2006年に有機JAS認定の健全なブドウを使用したワイン造りをスタートさせ、2008年には『ベリーベリーファーム&ワイナリー』を設立。2011年には醸造過程でも厳しい基準をクリアし、国内初のオーガニックワインの認可を受けました。
その後、ワイナリーが手狭になってきたことから、2020年には新たに『ドメーヌ・イチ』を設立して醸造免許を取得。2021年には『ドメーヌ・イチ』として改めてオーガニックワインの認可を受け、発売したファーストヴィンテージは即完売するなど、日本ワインファンの注目の的となってきました。その希少さから、一部では“幻のワイン”と呼ばれていることも。「今、ワイン用のブドウ畑で有機JAS認証を取った圃場は、全国でまだ10カ所以下、北海道でも2カ所だそうです※。日本で初めてブドウ畑でJAS認証を取得したのはうちの圃場なんですが、やっぱり何回も失敗を繰り返して、やっとうまく回るようになってきた。毎年いろいろな人が視察に来て、栽培方法を見学して行かれます。有機栽培に関しては、いちおうトップを走っている存在なんじゃないかな、と自負しています(上田さん)」。※取材時、上田さん談

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有機栽培、オーガニックワイン認定の大変さを乗り越えて。IoTを活用することで、不可能を可能に

日本でオーガニックワインの認可を受けるには、さまざまな条件をクリアする必要があります。例えば、原料には有機JAS認定されたブドウを使わなければなりませんが、その栽培のためには、植え付け前の2年以上、化学合成農薬や化学肥料を使用していない畑であること、栽培中も化学合成農薬や化学肥料を使用しないこと、遺伝子組み換え技術を使用しないことなどの条件があり、生産者は年に1度の検査を受ける必要があります。さらに醸造過程においても、着色料や香料、調味料や合成保存料は一切使用禁止。So2も最小限度の使用が許されているのみです。
『ドメーヌ・イチ』では手間ひまをかけて根気よくブドウを育てていますが、ハードルの高い有機栽培を実現させるために導入しているのがIoTの発想。「ウチは畑が数カ所に分かれているので、見回るだけでも半日以上かかってしまいます。そのロスを少なくすることができるんです。監視カメラによって鳥獣被害を未然に防いだり、気象センサーの導入によって積算温度や水分の状態など、畑の情報のデータを取ったり。それらが手軽にスマホでチェックできるので、例えば開花や成長の予測などに役立ちますし、効率よく動くことができるんです(上田さん)」。オーガニックを実現させるために、ハイテク技術を駆使する上田さんのスタイルには、これからの農業を予見させるヒントがたくさん含まれていそうです。

エンジニアが、有機栽培の農家に転身するまで。

北海道が地元だという上田さんですが、「小学校6年生まで札幌で過ごしましたが、中学・高校は親の仕事の都合でアメリカに行っていました。その後、東京の大学に行って、コンピューター関係の会社に就職。その間はずっと北海道を離れていましたが、出張で余市に来ることも多くて、知り合いもいて、畑をやらないか?という話をもらったりしていたんです。コンピューター関係の仕事に疲れていたこともあったし、家内もオーガニックな食生活に強く興味を持っていたので、一緒に畑を作ることを始めようか?と話し合い、北海道で就農したのが1999年。33歳のときでした(上田さん)」。

当初の目標は、オーガニックの野菜や果物を作ることで、ワインは全く興味がなかった、という上田さん。「買った畑に、たまたま生食用のブドウの樹がついてきて(笑)。そのブドウは他ワイナリーさんの買い入れ契約が残っていたので出荷していたんですが、うちのブドウがワインになって帰ってくるのを見て、自分でもやってみたいなと考えて。最初のワイナリー(『ベリーベリーファーム&ワイナリー』)を設立したんですが、設立した2008年当時は、まだワイナリーも少なかったですし、今のようにワインを飲む風潮もあまりなかったという印象。今はちょっと、オーバーツーリズム気味かもしれません」。

仁木町でも進む温暖化を実感。変化してゆく有望品種

仁木町は、余市町の隣に位置しており、早くから果樹栽培の盛んな地域です。冬はやっぱり寒いけれど、それでも気候に関しては比較的恵まれているところだ、と上田さんは語ります。「ただし、最近本当に雨が多くなっていて。あと暑さも問題です。きちんと品種選定をしていかないと、今までのやり方では通用しなくなるんじゃないかな?と思っています。今いちばん多いのはピノ・ノワールで、次に多いのがピノ・グリ。あと、ゲヴェルツトラミネール、ドルンフェルダー、ソーヴィニヨン・ブランを栽培していますが、基本的に全部ドイツ系とか北方系の品種なので、今後はハイブリッド種やヤマブドウ系、例えばヤマ・ソーヴィニヨンなど、気候に合っていて有機栽培でも育てやすく、美味しいワインになる品種も積極的に増やして行かなければ、と考えています」。

北海道の自然派ワインのレジェンドたちと出会って。有機栽培のブドウを野生酵母で発酵、無濾過&無添加で仕上げるスタイルに。

醸造に関しても、徹底して自然な造りを貫いている上田さんですが、自然派ワインとの出会いは、ワイナリーを始めてからだそう。「昔は、いわゆるナチュラルワインと呼ばれるようなものはなかったので、普通にコンビニに売っているようなワインを、こんなものか、って言って飲んでいました。ワイナリーを始めた2008年当時も、周りには工業的な、テクニカルワインを造るメソッドしかなかったんですね。2012年ごろになってから、『ドメーヌ タカヒコ』の曽我さんや、『10Rワイナリー』のブルース・ガットラヴさん、『kondo vineyard』の近藤さん、『農楽蔵』佐々木さんなどのワインに出会って、こういったワインがあるんだな、今までのものとは違うな、というふうに感じました。彼らのワインは乾燥酵母は使わず自然酵母で発酵させて、濾過せず、So2も使わない。うちは原料は全てオーガニックなのに、醸造はテクニカルなのはおかしいな、と思うようになって。それから曽我さんに教えてもらいながら徐々に方向転換していって、2018年には完全にナチュラルな醸造に切り替えました」。

大人気の自然派ペティアン「蝦夷泡 P 2022」入荷!フルーティーで甘やかな香りとすっきりとした後味の、瓶内二次発酵ワイン

「今では、すべてブドウの皮についた野生酵母で発酵させていて、濾過もしません。So2も無添加ですので、設備のサニタイズには細心の注意を払っています」と上田さん。自身は体に優しく、すっと飲めるようなワインが好きだそう。「うちのワインは、楽しくわいわい飲んでもらいたい、と思っています。また、できれば地元の食と合わせて楽しんでもらいたいですね。余市は海が近いので海産物が豊富なんですが、うちのピノ・ノワールもピノ・グリも、海鮮にすごく合うんです。お刺身やウニにもぴったりです」。
今回『wa-syu』で入荷した「蝦夷泡 P 2022」も、すっきりとした後味で楽しく飲める、微発泡のペティアンです。北海道では馴染み深い食用ブドウ「ポートランド」を使用、余市町や仁木町で収穫した果実を、野生酵母で発酵。「2022年は、前年2021年の旱魃とは異なり、適度に雨も降り、ポートランドぶどう自体も本来の味となり嫌味の少ないすっきりとした味わいになりました。仕込みは10日程醸してから搾汁し、オレンジワインの様に飴色に仕上げました(上田さん)」。バイヤーも幾度も北海道のヴィンヤードに足を運び、自信を持って推す逸品です。

蝦夷泡 P 2022/2,970yen(税込)

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日本ワインを知り尽くした人気ワインショップ『ウィルトスワイン』も、初のオリジナルワインは『ドメーヌ・イチ』で委託醸造!

日本ワインを知り尽くした人気ワインショップ『ウィルトスワイン』も、初のオリジナルワインは『ドメーヌ・イチ』で委託醸造!

東京・神宮前と自由が丘に店舗を構える人気ワインショップ『ウィルトスワイン』。日本ワインセレクトの第一人者で、稀代の飲み手であるオーナー・中尾有さんは、念願だった初のオリジナルワインを『ドメーヌ・イチ』の上田さんに託しました。どちらも瓶内二次発酵で澱を残したナチュラルな味わいです。

写真左から:
2022 KAMUY YUKAR カムイユーカラ キャンベル ブランドノワール/3,960yen(税込)
余市町産キャンベル・アーリーを、かなりしっかり選果してブラン・ド・ノワールとして野生酵母で仕立てています。「色は淡いロゼ色で、キャンベルの華やかなブドウの香りに軽いスパイシーさ、ファンタグレープ+ペプシコーラっぽい感じ。まさにくまペプシ!名前の「カムイユーカラ」というのはアイヌの神話集の名前で、ラベルの熊の耳の中にはポートランドのラベルのミソサザイの神様が。小さな鳥が大きな熊に打ち勝ったアイヌ神話を基に漫画家のカラシユニコさんに描いてもらいました(中尾さん)」。
2022 CAK CAK KAMUI チャクチャクカムイ ポートランド オレンジ/3,960yen(税込)
「2022 CAK CAK KAMUI チャクチャクカムイ ポートランド オレンジ」は、ブドウは余市町産のポートランドを使用。マセラシオンしながら野生酵母で発酵させています。「2022年は暖かく発酵が早かったので、ペットナットではなく瓶内二次発酵でスパークリングに。泡立ちは柔らかく、澱も抜かず。きれいなオレンジ色で、ジンジャー+オレンジのような香り。アルコールも低く思わず一本空いてしまうことが確実なワインです!ラベルは『ウィルトス』スタッフの河野さんが書いたもので、アイヌ神話のミソサザイという小さな鳥の神様をモチーフにしました(中尾)」。

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ドメーヌ・イチ
北海道余市郡仁木町:農地所有適格法人(株)自然農園グループ

ドメーヌ・イチ(Domaine ICHI)は、日本で初めてワインでオーガニック認証を取得した「ベリーベリーファーム&ワイナリー」が、2020年に新設したワイナリー。代表取締役は上田一郎(うえだいちろう)氏。ワイナリーのある北海道余市郡仁木町は、気候と土壌条件に恵まれ、近年多くのヴィンヤードとワイナリーが作られているエリアです。ドメーヌ・イチではピノ・ノワール、ピノ・グリ、ゲヴェルツトラミネールなどの醸造用ブドウ、昔からこの地域で栽培され続けてきたナイアガラなどの食用ブドウ、そしてハイブリッド品種を有機JAS認定された自社農園で栽培しています。環境と人にやさしい農法で栽培したブドウを、可能な限り自然な方法で醸造することを目指しています。

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ワイン造りの現場にwa-syuが特別インタビュー!
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