"北海道のへそ"と呼ばれる、極寒の富良野盆地で代々続く『多田農園』が、唯一無二のワインを造るまで。
『多田ワイナリー』を設立した『多田農園』は、明治34年から続く老舗農園。富良野盆地に入植して、121年を迎えます。3代目となる多田繁夫(ただしげお)さんは、2007年からピノ・ノワールの栽培をはじめ、師匠である醸造家、ブルース・ガットラヴ氏の元などで委託醸造でのワイン造りを開始。酒造免許を取得し、2016に『多田ワイナリー』を設立しました。もともとはタマネギや人参など野菜を作っていた多田さんでしたが、偶然の出会いが重なってブドウ作りもおこなうようになったそう。「まさか自分がワインを造るなんて、夢にも思っていなかった」という多田さんですが、700本のピノ・ノワールから始めて、今ではメルロー、シャルドネ、バッカス、ミュラー・トゥルガウと種類を増やし、カベルネ・ソーヴィニヨンとシラーも試験栽培しています。栽培には化学肥料は一切使用せず、有機質肥料や微生物資材などを少量使用しているほか、除草剤は一切使用せず、すべて手作業で除草や草刈りをおこない、農薬の使用も最低限に抑えるなどしています。ワイン造りは、実は"7〜8割が農業"と言われるほど、畑での仕事が大きなウエイトを占めています。代々農業と向き合ってきた多田さんの、徹底したワイン用ブドウ造りが、他にはない味わいを生みだしていると言えます。
気温はマイナス25℃越え。 寒暖差の大きい土地でのゼロからのチャレンジは、"雪"を味方につけることから。
偶然始めたブドウ栽培。今でこそ、上質のワイン用ブドウを産出すると評判の『多田農園』ですが、ここまで来るのには並大抵の苦労ではなかったそう。「ここ、上富良野町は山に囲まれた盆地。ともかく寒暖差が大きく、冬にはマイナス25℃、数年に一度はマイナス30℃を記録します。2011年には植えていたメルローが凍害にあって、全滅してしまうということがありました。そのときに、わずかに雪がかぶっていた部分の木が翌年に芽吹き、なんとか復活。雪をかいてかぶせることで、凍害を防ぐことが出来ることがわかりました。それから毎年、冬には手作業で雪をあつめ、幹にかぶせるということをしています。資材は要らないし、春になったら消えてくれるありがたい防寒設備なんです。ただしかなりの労力がかかるので、規模を広げすぎると難しくなる。そのバランスもあるので、ピノ・ノワールなどのワイン用のブドウを栽培しているのは、うちが北限なんじゃないでしょうか(多田さん)」。写真上は、雪かけ後、雪のなかでゆっくり休んでいるブドウの木。下は、秋になって無事収穫作業を迎えたところです。こうして"未知の挑戦"としてスタートしたブドウ作り。しかしできあがったブドウは、結果的に寒冷地ならではの酸がきれいな、良質のワインを生み出す原料として高い評価を得るようになっています。
手間を惜しまず、ミネラル豊富なこの土地の特長をより表現できる、野生酵母の個性的なワインを目指して。
野生酵母は、ブドウの果皮についている酵母と空気中に漂う酵母。これがブドウの糖と反応してワインとなりますが、発酵過程で雑菌が入り込むと大変、大きな影響があるリスクの高い醸造方法です。それでも『多田ワイナリー』が野生酵母でワインを造り続けるのは、この手法が、土地そのものの個性を感じることができる、特徴的なワインを生み出すから。この地には、何万年前かに起きた十勝岳の大爆発時に草木の上に大量に降り注いだ火山灰の層があり、その下には草木が腐らずに残った泥炭の層があります。このミネラルが豊富な土壌や、清涼な伏流水の層が幾重にも重なった地層から生まれるブドウを、最大限に活かしたワインを…。そんな想いから多田さんは、ブルース・ガットラヴ氏の教えに基づいた自然派のワイン造りを選択。大事な酵母を守るために畑で除草剤などは一切使わず、手作業による丁寧な収穫や厳しい選果を経たブドウだけを原料に使って、ワインの仕込みをしています。写真上は醸造責任者の菅井伸一(すがいしんいち)さん。多田繁夫さん(写真下)と共に、こだわりのワイン造りに取り組んでいます。「多田ワイナリーを地域のワイナリーとして育て上げること。そして、この地域にヴィンヤードやワイナリーが数多くでき、ワイン文化の香り高い豊かな地域文化づくりに微力ながら貢献すること。それが目標です(多田さん)」。
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多田ワイナリーを知るには、まずこの4本。厳しい寒さと豊かな伏流水が生む、きれいな酸はワイン通も絶賛!
日本で育てやすい品種ではなく、難しいとされる欧州系品種のワイン用ブドウにも果敢にチャレンジしている多田ワイナリー。ピノ・ノワールやシャルドネなどが、この北の地でも高い品質で収穫できることを証明しました。高名な評論家も支持する味わいです。
左:「2020 ピノ・ノワール」は、2020年に収穫した自社栽培のピノ・ノワールを野生酵母で発酵させた赤ワイン。上富良野ならではのしっかりとした酸が堪能できる、多田ワイナリーを代表する銘柄のひとつです。ミディアムボディで余韻は中程度。土っぽさ、マッシュルームや紅茶を連想させる味わいが感じられます。
左中:「2020 シャルドネ」は2020年に収穫した自社栽培のシャルドネを野生酵母で発酵。完熟ブドウを連想させる厚みのある味わいが堪能できます。アカシア、白い花の香りのフローラルな仕上がり。上質な乳酸系の酸が主体で、樽の風味が塩梅よく混ざり合います。余韻はやや長めです。
右中:「2018 C.N. (キャンベル&ナイヤガラ)」は、2018年に契約農家で収穫し
右:「2017 キャンベル&ナイヤガラ&バッカス」は、2017年に契約農家で
写真左から:
2020 ピノ・ノワール/4,950yen(税込)
2020 シャルドネ/4,950yen(税込)
2018 C.N. (キャンベル&ナイヤガラ)/3,080yen(税込)
2017 キャンベル&ナイヤガラ&バッカス/3,520yen(税込)
開設から120年目を迎えた『多田農園』を記念して造られた"田園シリーズ"。自社栽培のブドウを3種類ずつブレンドして、この地を特長的に表現!
2021年で120年目を迎えた『多田農園』。記念に造られた『田園ブラン ES』と『田園ルージュ ES』は、2020年収穫の自社栽培のブドウを3種類ずつ野生酵母で発酵させ、ブレンドして造られました。左の『田園ブラン ES』はシャルドネ、バッカス、ミュラー・トゥルガウをブレンド。ほどよい色あいのイエローが美しく、アカシア、白い花、レモングラスの香りが感じられます。ミネラル感たっぷりで、蜂蜜、りんご、花梨の香りも。豊かな果実味と豊かな酸の均整の取れた味わいで、余韻も長く楽しめます。右の『田園ルージュ ES』は、ピノ・ノワール、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンを使用。すみれ、芍薬、ブラックベリー、オリーブの香りに、アセロラや赤 果実香、ししとうの香り。土っぽさやウッディーなニュアンスも。上質な酸、しっかりとしたタンニンに加え、大地の力強さを感じます。
瓶内二次発酵の本格的なシードルもリリース!心地よい泡と爽やかな味わいが魅力の360mlボトル。
多田ワイナリー
[名称]多田ワイナリー/有限会社多田農園
[住所]北海道空知郡上富良野町東9線北18号
[概要]北海道のほぼ真ん中の位置、寒暖の差の大きい富良野盆地で、野生酵母による自然な造りのワインを手がけているワイナリー。1901年(明治34年)から代々引き継がれ、現在はワイン用ブドウ、にんじん、とうもろこしをメインに栽培している「多田農園」が運営しています。代表取締役は多田繁夫(ただしげお)氏。2016年のワイナリー開設のきっかけとなった「ピノ・ノワール」を中心に、その大地で元気に育ったブドウを、ひと粒ひと粒手作業で収穫。野生酵母によるワイン造りは手間もかかりリスクも伴いますが、その土地そのものを感じることができる、大変特徴的なワインを生み出しています。 また、多田農園では、ワイン造りのほかに、自社畑で栽培したにんじん、梨、ブドウを使ったオリジナルジュースの製造・販売をはじめ、プチペンション田舎倶楽部の運営もおこなっており、作物づくりを中心に、加工や体験、宿泊などを通して「こころとからだにやさしい食と暮らしを提案する農園」を目指しています。
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