シリーズ・日本ワインが生まれるところ。長野『楠わいなりー』にインタビュー!
数々の受賞歴を誇り、マスター・オブ・ワインも認める実力派! 日本ワイン界の頼れる頭脳、『楠わいなりー』代表・楠さんにインタビュー
『楠わいなりー』楠 茂幸(くすのきしげゆき)さんが造るワインは「サイエンスに基づく芸術」。世界中を飛び回るビジネスの世界から、もの造りの世界へ
国内外のワインコンテストでの受賞歴、JVA(日本ワインブドウ栽培協会)の理事としての活躍など、日本ワイン界を牽引する存在でもある『楠わいなりー』の楠さん。華やかな表舞台の影には、20年間、栽培と醸造に真摯に向き合ってきた楠さんの姿があります。「2004年に新規就農してブドウ栽培を始める前は、航空機のリースをする仕事をしていました。もともと大学は金属工学部、海外で働きたいという指向もあって、9年ほどシンガポールに駐在するなど、海外での仕事の機会に恵まれました。そんな中で、外国の金融機関の方やエアライン、メーカーの方々と食事をするということが多くなり、そういうときにはやはり、ワインを頼むわけで、多少知識が必要になってくる。そんなことから、ワインを勉強しなければ、と思うようになりました(楠さん)」。それまではほとんどワインを飲む機会がなく、全く何を頼んでいいかわからなかった、という楠さん。「最初は知識として身につけて…というところから始めて。だんだんワインについての蘊蓄を語るようになってくるのですが、自分ではワインを作る現場を見たこともなく、何も知らないので、忸怩たる思いがありましたね。そこからだんだんと深みにはまっていって、ワイナリーを訪ねたりするようになりました」。
そうして20年ほど、ビジネスの世界で活躍していた楠さん。「サラリーマンをしていて、ビジネス自体はすごく面白かったのですが、やはり自分で決定権を持って、何かをするわけではない。サラリーマンの限界みたいなものを感じるようになってきた。そんな中で40歳を迎え、残りの半分の人生をどうやって生きていこうか? と考えた訳です。このビジネスを続けていくのか、それとも自分の好きなことをしていくのかと、考えるようになりました」。
改めて、何か形に残るものを自分の手で造り、残したい、と考えるようになった楠さん。「もの造りをしたいなと思ったことと、地元である長野県の、大自然の中で生活をしたいというのもありました。また理系出身なので、サイエンス的なものも好きだし、音楽や絵を見るのも好きで、芸術性のあるものも興味がありました。そうして考えているうちに、好きなものが全て入ってるのがワインだということに気づいたんです」。
海外で学び、長野で新規就農。本格的なドメーヌスタイルでのワイン造りに着手!
長く海外で過ごす中で、さまざまなワインとの出会いもあったという楠さん。「航空機の仕事には、100億円以上のお金が動くダイナミズムがあります。その中で職位の高い人や、地位を確立した人とも一緒にワインを飲む機会があるわけで、ロマネ・コンティを始め、いろいろなワインを味わう機会もありました。当時は名前くらいしか知らなくて、“これがあの有名なロマネ・コンティかあ…”というくらいの感情でしたが。そういったワインとの関わりを続けてきたのですが、その後地元・長野に戻った直接の原因は、父の病気が発覚したこと。地元に戻って父の看病をしつつ、改めて、自分でワイン作りをするという決意を固めていました」。その後、オーストラリアのアデレード大学で、醸造学とブドウ栽培学を学んだのち帰国。「うちは農家ではなかったので、まるきり新規の就農。畑を借りて、苗木を植えてっていうところから始まりましたが、2004年当時は今よりも規制が厳しくて、新規就農は許可が下りにくく、大変でした。また、当時は本格的な日本ワインをヨーロッパ系のブドウで造っているワイナリーは、それほど多くはなかったんです」。その後、委託醸造を経て2011年に醸造免許を取得、ワイナリーを設立し、10月から仕込みを開始。「今は、原料のブドウはほとんど自社栽培になりました。去年は山形県からデラウェア、長野県内からナイアガラを少し買い入れているくらいです」。
理論に裏打ちされたこだわりの栽培と醸造は、素晴らしいワインへと昇華。熟成を重ね、美味しくなったものを飲んでもらえるように工夫も重ねて
ワイナリー設立後、2012年には長野県による長野ワイン振興プロジェクトで長野県を代表するワインとして「ピノ・ノワール2010」が採用されたり、2016年には軽井沢で開催されたG7交通大臣会議の歓迎レセプションのワインとして「シャルド2014樽熟成」が採用されるなど、次々と名品を生み出してきた楠さん。須坂市を中心に広がる扇状地、日滝原(ひたきはら)で、丁寧に育てたブドウを醸造。しっかりと熟成させたのち、頃合いを見てリリースしています。「やはり醸造後すぐに飲むよりも、熟成させてなるべく美味しくなった状態で飲んでもらいたい、と考えています。そのために倉庫や地下貯蔵庫も増設、樽は60以上置いています。私が赤ワインで求めてるのは、優美でエレガントなスタイル。濃いものではなく、品種特性を追求しているわけでもないのですが、コンクールで賞を頂いたりして、それなりに評価していただいているので嬉しいですね。また、シャルドネに関しては、多層をなす味わいと香りが魅力の一つだと思うので、それを求めています。いずれも食事との相性、特に日本食との相性っていうのをすごく重視して造っているつもりです」。
繊細な味わいの、日本食にぴったり合うブレンドを追求した名品「日滝原」も誕生。
「ワインを勉強してる時には、自分は一体どういうスタイルのワインを目指しているんだろう?と、常に自分に問いかけていました。その中で1つの結論が“日本食に合う”ということです」と語る楠さん。その言葉どおり、繊細な日本食に合う名品が誕生、高い評価を得ています。「この“日滝原”はセミヨンとソーヴィニヨンブランのブレンドです。お寿司や海産物、刺し身、などに合うワインをと、いろいろ試していく中で、 最終的にこのブレンドが日本食には1番合うんじゃないかなという結論に至りました。自分の求めてるスタイルのワインの1つとして、ぜひ味わってみていただきたいですね。お鍋や天ぷらなどとの相性も抜群。繊細な味わいの日本食にはぴったりだとおもいます」。
写真左から:
日滝原2022 2023.12.12発売予定
シャルドネ樽熟成 2020 スペシャルキュヴェ 2023.12.12発売予定
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日本ワインの最高峰とも言えるスペシャルキュベは、世界でも認められた味わい。
「いい品質のワインができた時には、スペシャルキュベとしてリリースするのですが、今はピノ・ノワールとシャルドネを、スペシャルキュベということでリリースしています。スペシャルキュベのラベルは、須坂出身の芸術家による『花』。シャルドネの方は、トロピカルフルーツのような香りにプラスして、口に含むとミネラル感がしっかりしていて、酸とアルコールのバランス、果実感のバランスがすごく良くて。しかも味わいが非常に多層をなしていて複雑。重めな感じがする味わいですね。かつて、2014年のシャルドネも、マスター・オブ・ワインのジャスパー・モリスさんと大橋健一さんが、世界大会で紹介してくれるなど、非常にいい出来でした。そのヴィンテージ違いなので、ぜひ味わってみてください。特に乳酸発酵してるので、チーズとか、バターソテしたホタテのクリームソースみたいなものには、非常によく合います(楠さん)」。
また『楠わいなりー』といえばピノ・ノワール、という声も。長野県のピノのレベルを底上げしていると言えそうです。「うちでは今、ピノ・ノワールの人気がすごく高いんです。以前、雑誌『ワイナート』で日本のピノ・ノワールをブラインドでテイスティングして、点数をつけるという企画があって。こちらもマスター・オブ・ワインのジャスパー・モリスさんが参加していたのですが、その時にうちのワインが最高得点という非常に高い評価をいただいて、嬉しかったですね。同点で最高得点だったのが『ドメーヌ・タカヒコ』のナナツモリでしたが、長野のピノ・ノワールもちゃんと認められてきています。うちもだんだんピノ・ノワールの畑を広げてきて、今は畑の面積としては1番多いんです」。
写真左から:
シャルドネ樽熟成 2020 スペシャルキュヴェ 2023.12.12発売予定
ピノノワール 2020 スペシャル キュヴェ/11,220yen(税込)
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瓶内二次発酵のスパークリングも名品揃い。スパークリング棟も竣工、ゆっくり寝かせて旨みが増したものだけをリリース。
楠わいなりーで定評あるシャルドネを、瓶内二次発酵でスパークリングワインに仕立ててた「吉祥 NV」や、セミヨン、ソーヴィニョン・ブランをブレンドした名品“日滝原”をスパークリングタイプにした「グラン・ヴォワイヤージュ 2015」は、日本ワインらしさを表現するために、螺鈿をモチーフにしたデザインに。「瓶内二次発酵ワインを造るために、2014年にスパークリング棟を竣工しました。“吉祥”は5年寝かせています。スパークリングワインは、ベースワインを造ったのち、瓶内でさらに二次発酵させるわけですが、やっぱり長期間寝かせないと旨みが出ないし、美味しくならないんです。やっぱり造った以上は、なるべく美味しい状態で飲んでもらいたいので、そのためにゆっくりと寝かせる施設が必要になりました」。
写真左から:
吉祥 NV/6,930yen(税込)
グラン・ヴォワヤージュ 2015/SOLD OUT
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須坂市にある、東日本最大級の古墳から出土した御守りをモチーフにした「鎧塚」シリーズは、極上のロゼ
スティルワインの「鎧塚アミュレット 2017」と、瓶内二次発酵の「鎧塚スパークリング 2016」は、素晴らしい色も楽しめる美しいロゼ。自社栽培の黒ブドウ品種、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランをブレンドして造っています。「鎧塚っていう名は、須坂市のワイナリーのすぐそばにある、紀元5世紀頃の石積古墳群『鎧塚古墳』から。
当時は騎馬民族がいたらしくて、そこから出土した鐙(あぶみ)につけていた御守り=アミュレットをラベルにデザインしています。特にスパークリングは、44カ月熟成させたのち澱引き。さらに約1年休ませてからリリースしました」。
写真左から:
鎧塚アミュレット 2017/SOLD OUT
鎧塚スパークリング 2016/11,110yen(税込)
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自社畑で栽培したリンゴもMIX。ふじを主体に紅玉、秋映、シナノスイート、シナノゴールドをブレンドしたシードルもロングセラー
「須坂は、もともとりんごの産地なんです。だから最初に新規就農した際に研修した先の農家さんは、リンゴ栽培の名人でした。その方にちなんで“リンゴ名人”っていう名前をつけたシードルを造ったんです。こちら(左)は同じくシードルなんですけれども、長野の山の連なりをイメージしたラベルです。うちでは自社畑でリンゴも少し作っているので、地元産のリンゴに加えて、自社のリンゴも使って一年間熟成させています。アルコール度数も9%と低めで、澱引きをしていないので、定温(14度くらい)環境の熟成ででさらに美味しくなりますよ」。
写真左から:
山脈 シードル 2019 樽熟成/2,530yen(税込)
シードル りんご名人 2019 樽熟成/2,530yen(税込)
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日本ワインをもっとたくさんの人に飲んでもらいたい。その思いから、さまざま活動にも参加している楠さんからメッセージ!
JVA(日本ワインブドウ栽培協会)の理事としてセミナーのファシリテーターや通訳も務めるなど、日本ワイン界でも重要な役割を担っている楠さん。「まだまだ日本ワインは、飲み手が少ないと感じますね。一部で話題になっているかもしれませんが、実際はそれほど消費量が増えているわけではないですし…。JVAの活動も、50年後、100年後の日本ワインについて考えるべく、情報共有をしようとはじまったものなんです。もっと、本格的にブームになって盛り上がってほしいと思っているのですが」。
さらに、自社のワインのイメージを語ってくれました。「いろんなスタイルのワインを造っていますが、やっぱり楽しい時はより楽しく、気の合った仲間と味わっていただきたいし、ちょっと辛い時には、気持ちを和らげてくれるようなワインを目指しています。1人で飲むときも、ワインの香りで思わずにっこりするような、ハッピーになれるような…。そういうワインを造っていきたいですね」。
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PROFILE
楠 茂幸(くすのきしげゆき)/楠わいなりー代表取締役・醸造家、ブドウ栽培家
1958年、長野県出身。須坂高校を卒業するまで須坂市で過ごした後、東北大学工学部卒業。その後中堅の貿易会社と航空機リース会社に勤務、その間10年ほどシンガポールに駐在。父の病気を期に退職し看病に専念。父の死後オーストラリアのアデレード大学大学院に留学し、ワイン醸造学とブドウ栽培学を学ぶ。
2004年より故郷須坂市で新規就農し、2011年にワイナリーを設立。醸造学におけるグラデュエイト・ディプロマ(アデレード大学)、ブドウ栽培学におけるグラデュエイト・サーティフィケイト(アデレード大学)取得。
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楠わいなりー
長野県須坂市亀倉:楠わいなりー(株)
楠わいなりーは、長野を代表するワイナリーの一つ。2011年に設立、初仕込みの「メルローキュヴェマサコ2011」が長野県原産地呼称認定委員会にて審査員奨励賞を受賞するなど、高品質のワインを生み出し続けています。「シャルドネ2014樽熟成」が2016年に開催されたG7長野県・軽井沢交通大臣会合の歓迎レセプションワインとして採用されたことでも有名。また「ピノ・ノワール2014」が、ワイン業界で最も権威のあるマスター・オブ・ワインによる日本のピノ・ノワールのブラインドテイスティングで最高点を獲得するなど、国内外で高い評価を得ています。
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ワイン造りの現場にwa-syuが特別インタビュー!
シリーズ・日本ワインが生まれるところ。
日本ワインは人とブドウのストーリーから生まれます。ますます日本ワインが好きになる、そんな素敵なワイナリーを、wa-syuが独自取材でご紹介!
▼「ワイナリーリスト」はこちら
日本ワインで、日本をもっと深く知る。
エリア別ワイナリーガイド。
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