伝統芸能「能楽」に通ずる日本ワインの遺伝子
能楽師小鼓方大倉源次郎×日本ワイン醸造家アンジェロ・トターロ

これまで日本ワインの魅力を発信するため、さまざまなイベントを主催してきたwa-syuですが、今回の催し「カルチャー日本ワイン」はカルチャーと日本ワインを掛け合わせて化学反応を楽しもうというもの。
第一回目のテーマは「能楽」とし、それぞれのキーパーソンを東急プラザ銀座の特設会場へとお呼びしました。

(右)能楽小鼓⽅大倉流十六世宗家で人間国宝の大倉源次郎氏。(左)北海道余市町「キャメルファームワイナリー」醸造長のアンジェロ・トターロ氏

煌びやかな銀座の夜景をバックに、能楽と日本ワインそれぞれのファンにお集まりいただき、一夜限りの宴を開催。
長い歴史を持つ能楽と、比較的新しい日本ワイン。まったく異なった文化のように思われますが、トークを通じて両者に重要なつながりが見えてきました。

 

見出し① 田植えを「能楽」でダンスパーティに!?
見出し② 金を施した楽器は豊かな暮らしへの祈り
見出し③ 西洋のワインづくりも音楽で楽しく!
見出し④ 世界で見ても余市は特別な土地
見出し⑤ 前代未聞!日本ワインと海苔弁ペアリング


「能楽」は田植えを楽しむためのダンスパーティ

室町室時代に大成し、600年以上の歴史をもつ「能楽」。「能」と「狂言」を総称したもので、ユネスコ世界無形文化遺産にも登録されています。
海外からも高く評価されている日本の伝統芸能「能楽」。実は、農業と密接なつながりがあるのです。

「古来、農業は国の基幹事業であり、国民が生活するためにとても大事なものです。

古代農法では連作障害を防ぐため、田んぼも三年栽培したら二年は土地を休ませる必要がありました。しかし大陸から水田稲作が伝わってからは、毎年安定して米を生産できるようになり、日本は発展していくことができたのです。

田んぼに苗を植えるのは、繊細な作業が得意な女性の役割でした。
男性たちはというと、田植えを盛り上げるために音楽を奏でます。春の水田はまるでダンスパーティ会場のよう。それが能楽の始まりです」(大倉氏)

「ダンスパーティ」という言葉に、会場からはどよめきが。能楽の歴史について解説してくださる大倉源次郎さん。はじめは難しい話かと構えていた参加者たちも、ユーモアを交えたトークで始終和やかな表情に。

(左から)能楽太⿎⽅⾦春流⼆⼗四世宗家 ⾦春惣右衛⾨氏、能楽⼤倉流⼤⿎⽅ ⼤倉慶乃助氏、能楽⼩⿎⽅⼤倉流⼗六世宗家 大倉源次郎氏、能楽笛⽅森⽥流 杉信太朗氏

楽器には人々の豊かな暮らしへの祈りが込められている

お話は楽器の説明へと移ります。

「演奏で使われる小鼓の胴には、金で蒔絵が施されています。絵柄は稲の切り株や桜など、五穀豊穣を表したモチーフがよく描かれています。
当時、金はとても高価で仏像にしか使われないようなものでした。そんな貴重な金が用いられるほど、小鼓には人々の豊かな暮らしへの祈りが込められているのです」(大倉氏)

お囃子の笛は風の音、太鼓や小鼓、大鼓はそれぞれ水の響きを表現。正確に調律される楽器とは違い、季節や気候によって音は日々変化するものなのだとか。

「自然に身を委ね、その日いちばんいい音を奏でるのが奏者たちの役割です。たとえばブドウの味も毎年微妙に違いがありますが、みなさんその年のブドウでいちばんいいワインを造ろうと画策されますよね。毎年違うワインを楽しむように、自然との共存をいかに楽しむかは、能楽の世界にも共通することです」(大倉氏)

ヨーロッパのブドウの収穫も町全体がお祝いムードに

初めてお囃子の演奏を生で聴き、「身体の内側から突き動かされたような気持ちを感じました」と瞳を大きく開くイタリア生まれのアンジェロ氏。大倉氏の語る能楽の歴史に頷きながら、「日本の稲作に、ヨーロッパのワイン造りとの共通点を感じます」と話します。

ワインの歴史も長く、イエス・キリストの布教で広まったといわれています。

かつてのヨーロッパでは、晩夏から秋にかけて収穫したブドウを樽に詰め、人が足踏みでつぶして製造していました。大量のブドウを仕込むのはとても大変ですが、音楽とともに足踏みすることで作業を楽しめるように工夫していたそうです。

現代では機械でブドウを破砕するところがほとんどですが、収穫の時期は各地で収穫祭が開かれ、街全体がお祝いのムードになっているのです。

余市の素晴らしい土壌で生まれる、酸のきれいなスパークリング

世界に挑戦できると確信した余市で造るスパークリング

「ワインに関わっていくうちに、ワイン造りとはただボトルに詰めればいいだけではなく、素晴らしいコミュニティと共に作り上げていくものだと哲学を感じるようになりました。そして最高のワインに出合うため、もっと挑戦をしたいと思うようになったのです」(アンジェロ氏)

シャンパーニュ地方やエミリア=ロマーニャ州でも活動してきたアンジェロ氏が醸造長を務める北海道・余市の「キャメルファームワイナリー」は、海と山が近いブドウ造りに恵まれた土地です。
素晴らしい人との縁と風土に惹かれたアンジェロさんは、余市でスパークリングワインを中心に造ることを決めました。

しかし北海道は冬から春にかけて、農地が雪に覆われてしまいます。寒さに弱いブドウの木ですが、冬季はどうしているのかというと。

「秋にブドウを収穫したら、木を支えるワイヤーを外して枝を低くします。そして冬の間はあえて雪をかぶせてしまうのです。雪の外はマイナス15度の世界ですが、雪の下は0度ほどで保つため、ブドウの木は冬を越すことができます」(アンジェロ氏)

この育て方は、「世界各国の農地を見ても余市にしかない」とアンジェロ氏。酸のきれいなスパークリングはここから生まれるのです。

「余市の農家の方々の知恵と技術を継承し、新たな仲間たちと安心かつ安全なワインを造り世界へと発信していく。それが今の私たちの挑戦です」(アンジェロ氏)

予約席は満席。会場約70名がワインを飲み比べながら、造り手の話に耳を傾けます

またキャメルファームワイナリーの木は、一つひとつ大切に長く育てているのも特徴だという話を受け、「大切に育てて刈り取ったあとの余市のブドウの木を、蒔絵に描いてもらえると素敵ですね」と、大倉氏が微笑みます。

「大勢でブドウを収穫するという光景も、まさに田植えがリンクします。キャメルファームワイナリーの収穫で、お囃子の演奏が実現できたら素晴らしいですね」という大倉氏の言葉とともに、二人は握手を交わしました。

日本ワインと海苔弁の思いがけないペアリングに驚愕!

イベントでサーブされたワインはこちらの5種。

一例として左から2番目の「ブラウフレンキッシュ ブリュット ナチュレ ドサージュゼロ 2021」はキャメルファームワイナリーの人気銘柄のひとつで、赤ワイン用のブドウから造られた珍しい白の辛口スパークリング。

4番目の「バッカス エクストラ・ドライ ヴィエイユ・ヴィーニュ 2021」は樹齢45年の古木によるしっかりとした味わいが特徴。出汁を使った和食との相性も抜群です。

中央の白ワインと右端の赤ワイン以外は白の発泡。北海道の魚介料理に合うスパークリングの製造に力を入れているキャメルファームワイナリーらしいセレクトです。

左から:
キャメルブリュット メトド トラディショナル 2014/6,600yen(税込)
ブラウフレンキッシュ ブリュット ナチュレ ドサージュゼロ 2021/3,630yen(税込)
ケルナー スパークリング 2021/3,630yen(税込)
バッカス エクストラ・ドライ ヴィエイユ・ヴィーニュ 2021/3,630yen(税込)
ブラウフレンキッシュ プライベート リザーブ2021/6,050yen(税込)

食事は甘味・お食事処「SALON GINZA SABOU(サロン ギンザサボウ)」で作られた、イベント限定メニューの「銀鮭幽玄仕立 海苔弁」が参加者の関心を惹きます。

同店では「海苔弁」が大好評の看板メニュー。日本人にとって馴染み深い「海苔弁」が“伝統文化”という今回のテーマにマッチするところから、日本ワインとのペアリングのために特別アレンジされました。銀鮭をキャメルファームワイナリーの赤ワインと山椒、羅漢果を煮詰めたソースに一晩漬け込み、照り焼きだれをまとわせて炙り焼きにすることで、赤ワインと合う一品に。意外性の高い組み合わせで、日本ワインの新しい楽しみ方を存分に味わうことができました。

小鼓の打ち方をレクチャーしてくださった大倉氏。会場の心がひとつに!

最後に、二人にコラボレーションを振り返っていただきました。

「日本の国づくりと農業がリンクしているのを現代で感じるためにも、このようなイベントは非常に貴重でした。能楽に馴染みのない方もぜひ、覗き見感覚で見ていただければと思います。興味がわく部分がありましたら、それが自分にとってどういうものか深掘っていくと、新しい自分を発見できますよ」(大倉氏)

「とても刺激的な一日でした。みなさんも五感をフルに稼働して、心や魂を開く機会になれば嬉しいです。私たちは今後もワイン自身が語ってくれるように、ひたむきに造っていこうと思います」(アンジェロ氏)

銀座の夜景をバックにしたお囃子の演奏と、日本ワインとの出合い。五感をフルに使ったスペシャルな時間となりました。第二回目の「カルチャー日本ワイン」の開催も是非お楽しみに!

能楽小鼓方大倉流十六世宗家
大倉源次郎

能楽小鼓方大倉流16世宗家 人間国宝(重要無形文化財 各個認定)公益社団法人 能楽協会理事 大倉流十五世宗家大倉長十郎の次男として 大阪に生まれる。 昭和39年 独鼓「鮎之段」にて初舞台昭和54年 能「翁」披 海外公演にも数多く参加、パリ、ニューヨーク、シンガポール、香港、ミラノなど多数公演以上に参加日本の歴史研究にも勤しみ、著書も多数。農作と芸能の繋がりを未来につないでいく活動も精力的に推進

北海道・余市「キャメルファームワイナリー」醸造長 アンジェロ・トータロ氏

「キャメルファームワイナリー」は、 2014年に設立。環境や人へのサポート活動を通じて出会った、現代イタリアを代表する醸造家、リカルド・コタレッラ氏と共に「日本の農業を元気づけ、グローバルに発信する」ワイン造りを目指し、北海道・余市でワイナリーをスタートしました。
醸造長を務めるアンジェロ・トターロ氏は、リカルド氏の愛弟子でありイタリアの銘醸地、エミリア・ロマーニャの「サン・パトリニャーノ」で醸造長として活躍。現在は、ワイナリー長、伊藤愛氏を中心とした栽培チームとともに余市のテロワールを最大限に活かした、世界を目指すワイン造りをおこなっています。ベルリン・インターナショナル・ワイン・コンペティション2019にて「Japan Winery of The Year」を受賞するなど国内外で注目を集めています。

SALON GINZA SABOU

日本の今と古きよき食文化を感じられる甘味・お食事処。
土鍋で炊きあげた幻のコシヒカリ「雪ほたか」と 素材をいかした料理を堪能できます。世界が注目する日本茶と共に、 自家製の和スイーツも味わえる空間です。

住所:東京都中央区銀座五丁目2番1号 東急プラザ銀座B2F
営業時間:11:00-22:00
昼 11:00-15:00(L.O. 15:00)
夜 17:00-21:00(L.O. 20:00)
甘味 11:00-22:00(L.O. 21:00)
TEL : 03-6264-5320
座席 38席

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