シリーズ・日本ワインが生まれるところ。宮崎での挑戦は続く。『都農ワイン』にインタビュー!

九州地区でのブドウ・ワイン生産をリードする『都農ワイン』。その努力の軌跡と、宮崎ならではの特色を活かしたこだわりワインの魅力とは?

その情熱は、日本ワイン界屈指。『都農ワイン』赤尾誠二さんに聞く、ブドウ・ワインとの向き合い方

宮崎県・都農町でワイナリーを営む『都農ワイン』。ワイナリー立ち上げの準備段階から参加、2023年に2代目の社長に就任した赤尾誠二(あかおせいじ)さんは、日本ワイン界でもその名を知られた存在です。約30年のキャリアを活かし、ベテラン勢と若手のあいだを取り持つ良き相談相手としても慕われている赤尾さん。また『都農ワイナリー』は、美味しさと手に入りやすさのバランスも抜群。日本ワインの普及と人気に一役買ってきたワイナリーとも言えます。
現在赤尾さんは、社長業と並行して、栽培・醸造も直接担当するという多忙な日々を送っています。年間の生産量は約20万本、自社畑の規模も9.5ha。全体の約40%を自社畑のブドウで賄っているほか、地元の農家からブドウを買い入れ、産地を発展させるためにも大きく貢献しています。

不利な条件をメリットに変え、台風にも寄り添って。日本中から愛されるブドウ産地へ!

「僕たちのワイナリーが位置するのは都農町から川南町にかけて、尾鈴山を臨む地区なのですが、ここの“尾鈴ブドウ”を使ってワインを造ろう、というところから、ワイナリー設立の計画がスタートしています。この地域では、戦後まもなく永友百二さんという人が、お米に変わる転換作物として、果物やブドウの栽培を手がけ始めました(赤尾さん)」。
雨の多い都農では果樹の栽培は不可能、と言われ続けていたなか、百二氏は努力と工夫を重ね、美味しいブドウを作ることに成功。やがて“尾鈴ブドウ”は日本中から認められ、注文が殺到するようになりました。
「宮崎県は冬が短くて春が早く訪れるため、果樹の芽吹きも開花も早い。色づきも収穫も早いので、ブドウも他の地域に比べて、1ヶ月から1ヶ月半くらい前倒しで生育する感じなのです。他の地域だと秋になってから収穫するような果物が、お盆の時期には全国へ出荷できるというメリットがあるんです」と赤尾さん。しかし宮崎県は温暖で降雨量も多く、収穫期にしばしば台風の上陸にも見舞われる地域。栽培での苦労が偲ばれます。
「台風はもう、来てしまうものなので、嫌っても仕方がないですよね。寄り添うしかない。排水対策や防風林の植樹、土作りや仕立ての工夫など、さまざまな研鑽を重ねてきました。だからこの地域のブドウ栽培の技術は全国でもトップクラスだと思いますし、世界的に進んでいる温暖化と戦ってきた、先進的な地域でもあります。今、日本のブドウ産地が直面している問題は、すでに都農町では対策済みのことでもあるんです。もちろん、雨音を聞くと胸が苦しくなるくらい辛いんですが…。それを乗り切ってこそ、この産地は成り立っている。僕はある意味、“ドM”なのかもしれませんね(笑)」。

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18歳でワイナリーのプロジェクトに参加。赤尾さんのキャリアは、都農ワインの歴史そのもの

こうして、先人が工夫を重ねたことでブドウや果物の有名産地となった尾鈴地区。ブドウ開墾の祖・永友百二氏の孫くらいの代になって、はじめて彼らの夢だったワイナリーが実現したという形だが、このワイナリーの設立にも紆余曲折があったそう。
「町営のワイナリーを設立しようという計画が立ち上がり、北海道・池田町の『十勝ワイン』(日本初の自治体経営によるワイナリー)からも話を聞く機会を儲けるなどして可能性を探っていたのですが…。当時は、国税庁が地方公共施設や団体には酒造免許を付与しない、池田町の例が最初で最後だということだったので、一度はワイナリー設立を断念しました。その後、都農町は第3セクターによる設立に舵を切り、1993年(平成5年)に法人を設立。その後、2016年(平成28年)に民営化という形になりました(赤尾さん)」。

『都農ワイン』設立の3年前、18歳で地元の農業高校から都農町の町役場に採用されたという赤尾さん。「第3セクターでワイナリーを作るというプロジェクトチームに配属され、準備期間を経て3年後、21歳のときにワイナリーが完成。民間から工場長として採用された初代社長・小畑と、たった2人でスタートしたんです。僕の実家は畜産農家、学生時代は食品化学科で、実習でハムや味噌やパンを作ったり、ワインを造ったこともありました。今でも冬になったら自分でベーコンを仕込むんですよ。ベーコンを厚切りにしてカリカリに焼いて、大根おろしとポン酢をかけると、シャルドネの樽仕込みにすごく合うんです!寿司職人になりたかった時期もあるので、自分で魚を釣って捌いて、刺身も寿司も作ってしまいます(赤尾さん)」。

常識に囚われない独自の栽培方法を模索して。キャンベル・アーリーやシャルドネは、ワイナリーを代表する品種へと

「日本海側や内陸で良しとされている技術は、僕らの地域ではまったく当てはまらないということも多い。いちばんよい畑は、風雨の被害が少ない窪地にあったりします。また、ここ南九州の土壌特性は火山灰土壌、通称黒ボク土と言われていて、水はけはよいのですが、ブドウが欲しがるようなミネラル分は少ない。だから積極的に堆肥を使って土作りをしっかりとしていますが、この施肥のタイミングも方法も、従来の果樹栽培の常識には当てはまらないのです(赤尾さん)」。
自分たちの畑に適した農法をゼロから模索してきた、尾鈴地区の人々。そんな尾鈴ブドウの歴史を支えてきた品種は、キャンベル・アーリーです。「雨量だけでなく、日照時間も全国でトップクラスの宮崎県。やはり日照が豊富だと甘やかで華やかな香りが出るので、尾鈴のキャンベル・アーリーは イチゴのような甘い香りや、モモやアセロラ、南国の果物を思わせる香りが十分出るのが特長。ここのキャンベル・アーリーで造ったワインは、まさに和酒、地酒とも言える存在です。味噌や醤油を使った料理とも相性がいいですし、ショートケーキやチーズケーキなどのスイーツにも合う。宮崎県の郷土料理、チキン南蛮にも、実によく合います。また、キャンベル・アーリーのワイン自体を凍らせて、レモンシロップやはちみつでジェラート状にして食べるのもおすすめです」。

さらに、『都農ワイン』で特に高評価を得ている品種はシャルドネです。「シャルドネに関しては、僕が19歳のころに植えた木なんです。長持ちさせるために土作りから仕立てまで、管理に力を入れていた結果、樹齢が30年近くになりました。そのおかげで味わいに厚みが出ているのだと思いますし、ウチの強みになってくれています。そのほか、ピノ・ノワールなどの欧州系品種もチャレンジし続けています(赤尾さん)」。

クリーンで品種の特長が感じられるワインを目指して醸造した、宮崎ならではの味わい

「醸造に関してのこだわりは、まずは品種の特長がしっかりと感じられること。それから産地の特長が出ていること、あとオフフレーバーがきつくないということ。この3つを心がけています。やっぱり宮崎らしさ、都農らしさっていうのはあるな、と僕は思っているので、その華やかさや香りの抜けの良さ、クリーンな味わいを、大切にしたいと考えています。
設備投資も積極的に行ってきており、例えば窒素ガスや炭酸ガスなどの不活性ガスを使うことで、醸造過程でワインをなるべく酸素に触れさせないようにして酸化を防いでいます。そうすることで、酸化防止剤の添加を少なくすることもできるのです(赤尾さん)」。

自社畑で採れたブドウを使ったキュベ、プライベートリザーブシリーズ。味わいとペアリングも聞きました

プライベートリザーブは、ワイナリー近くの自社畑で収穫したブドウで採れた葡萄を使ったシリーズです。
「都農のテロワールを感じる、エレガントなラインナップです。例えばシラーも、海外のものだと黒コショウのようなスパイシーな香りがありますが、僕らのシラーは白コショウや山椒の香りを感じます。まさに和酒だと思うんです」。

写真左から:
プライベートリザーブ 甲州 2022/4,070yen(税込)
「『プライベートリザーブ 甲州 2022』は、日本最南端甲州を使っています。甲州好きの人にぜひ飲んでみてもらって、山梨の甲州とくらべてもらいたいですね。白桃の香りがするのが、宮崎の甲州の特徴じゃないかと言う人もいます。野菜の煮こごりとか、和食全般に相性はいいと思います」。

プライベートリザーブ シラー 2020/4,070yen(税込)
「これは山椒のような香りがするので、ウナギの白焼きに山椒をぱらっとかけて食べるのがいいですね」。

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宮崎の名産品、マンゴーやキウイを使ったワインも!ブランデー、デザートワインなど、新たな挑戦は続く

ブドウのワインで確固とした地位を確立し、九州地区でも美味しいワインができることを証明してきた『都農ワイン』。赤尾さんは新たなチャレンジも続けています。
「僕たちのワイナリーが第3セクターから始まったということも一因なのですが、経営理念として、コミュニティビジネスっていう視点があって。地域にある資源を使ってワイン醸造、地域貢献していくという発想があるんですね。
東国原英夫知事が、“宮崎をどげんかせんといかん”っていって、マンゴーをバン!と宣伝する前の年から、僕らはマンゴーのワインを作り始めていました。数に限りがありますが、宮崎らしいということもあり、人気がありますね。また、新たな名産品として栽培が盛んなキウイフルーツもワインにしています。これは加糖もせず、水も使わず、キウイの果実のみを使っている果実酒なんです。フルーツワインは、あえてフルーツそのものと合わせるのもいいですね(赤尾さん)」。

写真左から:
スパークリングワイン マンゴー/2,970yen(税込)
スパークリングワイン キウイ/2,970yen(税込)

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クリオエクストラクション製法で作られたデザートワインにも、多くのファンが。「地元で食用ブドウのサニールージュを栽培していて、その食味や美味しさをそのまま活かす方法をと考えたのが氷結絞りのデザートワインです。海外のアイスワインにくらべて、非常にエレガントで優しい味わいに仕上がっています(赤尾さん)」。

Sweet Tsuno[375ml]/2,970yen(税込)

「僕らはキャンベル・アーリーのワインをたくさん造っていますが、そんなアーリーを永遠に楽しむために何ができるんだろう?って考えて、ブランデーを作ろうっていうことになって。いわゆるグラッパは、絞りかすをそのまま蒸留するんですが、僕らのはキャンベル・アーリーの絞りかすでいったんワインを造って、それを蒸留しています。透明のホワイトブランデーなのでカクテルとの相性も非常によくて、ミックスする素材の味をうまく引き出してくれますね。ハイボールと同じ感覚で、炭酸割りで飲むのもいいですし…。僕はウィルキンソンのレモンフレーバーの炭酸で割るのが好きです!(赤尾さん)」。

ホワイトブランデー Bojo[200ml]/1,870yen(税込)

普段の食事にもぴったり。地域の魅力を発信する『都農ワイン』で乾杯!

都農町周辺のスーパーでは、買い物のついでに、カゴの中に『都農ワイン』の一本を入れているという姿もよく見られるそう。また、地元の都農神社の御神酒として、キャンベル・アーリーのスパークリングワインが採用されているなど、ワイン造りは着実に地域に根ざしています。「海外のコンクールに出していても、“Miyazaki”というよりも“TSUNO”というほうが大きく紹介されているくらい。地元で愛されているのも嬉しいことですし、都農というテロワールを背負っていくことで、この町の名が日本中、世界中に発信できるというのは大きな魅力です。
僕らのワインは、普段食べている食事に寄り添うようなワインだと思うので、ぜひ、家で乾杯したい時に飲んでもらいたいですね。また『wa-syu』は、日本のワイン=和酒っていう、僕がすごく好きな言葉。和酒を飲んで、その地域の美味しいものを食べることで、ぜひ、地域の応援につなげてください!(赤尾さん)」

都農ワイン
宮崎県児湯郡都農町大字川北:(株)都農ワイン

都農ワイン(TSUNO WINE/つのわいん/ツノワイン)は、「ワインは地酒であるべきだ」という信念のもと地元の方々に愛されるワイナリーを目指して1996年11月にオープン。地元産ブドウを100%使い、地元の風土を表現するワインを造り続けています。宮崎の豊富な日照を受けたブドウで造るワインは、フルーティーで華やかなスタイルに仕上がります。

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ワイン造りの現場にwa-syuが特別インタビュー!
シリーズ・日本ワインが生まれるところ。

日本ワインは人とブドウのストーリーから生まれます。ますます日本ワインが好きになる、そんな素敵なワイナリーを、wa-syuが独自取材でご紹介!
 
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日本ワインで、日本をもっと深く知る。
エリア別ワイナリーガイド。

日本の感性と職人技を生かした名品が次々と誕生し、国内外の食通を惹きつけながら、進化し続ける日本ワイン。南北に長い日本列島の各地で栽培・収穫されたブドウのみを使用し、日本国内で製造された「日本ワイン」は、その地域の気候や品種によって性質もさまざまで、そのため多様性に富んだ味わいが特徴です。北は北海道、南は九州・沖縄まで。日本全国より、wa-syuが厳選した50以上のワイナリーをエリア別ガイドでご紹介します。

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