早稲田大学・福田育弘教授に特別インタビュー!ナチュラル系日本ワインの風景 <前編>

「日本人にはナチュラルな味を素直に美味しいと思える感性があります」。人気が高まるナチュラル系ワインを深掘りすべく、『wa-syu』は早稲田大学・福田教授の元へ。面白くてためになる、日仏ワイン文化のお話を独占取材!

ナチュラル系ワインのムーブメントを、フランスと日本で体感してきた早稲田大学・福田育弘教授にインタビュー!

フランスと日本の食文化に造詣が深く、双方のワインカルチャーにも精通する、早稲田大学・福田育弘(ふくだいくひろ)教授。自然派ワインの生産者を招いてシンポジウムを開催するなど、ナチュラル系ワインや日本ワインについての包括的な見解をもつ、重要な研究者の一人です。今回『wa-syu』のバイヤーであり、ワインエキスパートでもある菊地良美(きくちよしみ)が、福田教授へインタビューを敢行。その貴重な講義を、2回にわたってたっぷりと紹介します!

wa-syu・菊地良実(以下、菊地):先生が研究なさっている専門分野について、まずお伺いいたします。早稲田大学の教育・総合科学学術院 教育学部複合文化学科という、ちょっと難しい名前の学科にご所属なのですが…。
福田育弘教授(以下、福田敬称略):私はもともと、フランス文学を研究していたんです。日本の大学ではドクターまでずっとフランス文学で、その後、パリ大学留学のためにフランスへ渡りました。フランスにいる間にその飲食文化に魅せられて、特にワインの文化に惹かれるようになってきたんです。フランス文学の中には飲食の場面も非常に多いので、そういった部分を分析するようにもなり、それがだんだんと本業のようになってきて。ワインの歴史書の日本語訳を3年がかりで手がけたこともあります。この20年は、フランス語も教えているのですが、飲食の社会史とか、社会学といった形で研究を続けています。

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菊地:フランスでのワイン文化を、日本のそれと比較するようなジャンルでしょうか。面白そうですね!
福田:フランスではワインは毎日飲むものですから、学食にも置いてあるし、なんと病院にワインリストが置いてあったりする(笑)。けれども日本にはもともとワイン文化が無かったわけですから、日本人がワインに対してどう感じるかというのは、フランス人の感覚とは大きく違います。両者を比べて研究するという意味においては、文化人類学、比較文化論といった分野でもありますし、日本とフランスをフィールドにした、社会学、社会史とも言えるかもしれません。もともと専門だったフランス文学は、今では時おり、研究・分析の材料に使うくらいでしょうか。日本ワインの造り手を取材する機会も多く、最近は日本ワインに関する本や論文も執筆していますが、ワイナリーの数がどんどん増えてくるのでそこは論文に書けませんね(笑)。400場などと書くと、書いてるそばから増えて、情報が古くなってしまうほどです。
菊地:今回は、主に自然派ワインについて伺いたいのですが、先生はフランスでも自然派ワインを飲んでいらっしゃいましたか?
福田:自然派ワイン、ヴァン・ナチュールだけを飲んでいたわけではなく、ボルドーやブルゴーニュのエレガントなワインも飲んでいます。でもこれだけは言っておきたいのは、特にブルゴーニュ型で美味しいものは、ナチュールに近い造りをしているものが多いということです。ボルドーは大手が多いので比較的ナチュールではなく、造り込んだワインが多いのですが…。良いワインになればなるほど、基本的にナチュールに近い造りをしているんです。ロマネ・コンティ(仏: Romanée-conti)なども栽培はナチュールだし、人工酵母を使わずに野生酵母でやっているものも多い。フランスで1990年代初頭に出版されたヴァン・ナチュールのガイドブックには、ロマネ・コンティが自然派として載っていたりするし、超高級だと思われているワインは、意外にも自然派に近い造りだったりします。

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福田:フランスでの自然派ワインの大きな流れで言うと、終戦後、1960年代から1970年代にはブドウの栽培の部分で非常にケミカルになって、除草剤や化学肥料をどんどん使うようになっていた。その反動とも言えるのが"有機農法"や"自然農法"です。さらに1980年代から1990年には、醸造の部分が非常にテクニカルかつケミカルになって、補糖や補酸はあたりまえ、人工のアロマ酵母で香りをコントロールしたり、亜硫酸塩も醸造の過程で何度も大量に使ったりしていた。その反動が、私は"有機醸造"と呼んでいるのですが、人工酵母も亜硫酸塩もほとんど使わないナチュラルな製造方法です。余談ですが有機農法、有機醸造に回帰する根底には、化学物質による環境汚染や人体への影響に警鐘を鳴らす書『沈黙の春』が世界的なベストセラーになるなどの影響があったのでしょう。今、フランスは有機農法が20%を超えていますし、ヨーロッパはもうすぐ50%くらいになります。

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福田:こうして、栽培・醸造ともに自然に回帰したワイン造りがおこなわれるようになり、1990年代には徐々に自然派ワインといわれるようなワインも出て来始めました。でもよく調べると当時はまだ、昔ながらの農薬を使わない栽培を頑固に続けていたり、自然な醸造の方法を頑なに守り続けていたりする人たちもあちこちに残っていたんです。その昔ながらの味を美味しいと感じる人たち、たとえばマルセル・ラピエールなどの造り手が先駆的な役割を果たして、ナチュラルなワインに立ち返る活動を始めたということだと思います。マルセル・ラピエールは、"ナチュラルワインの父"と呼ばれるような、重要な造り手です。

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菊地:先生ご自身は、ナチュラルワインとどのように出会い、どのように感じましたか?
福田:私は1990年代からマルセル・ラピエールのワインを毎年飲んでいて、"ここのワインは美味しいな!"と思っていたんです。2003年には彼のワイナリーで実際にインタビューをすることができ、2008年には収穫を手伝ったこともあります。そのころになって始めて「自然派ワイン」「ナチュラルワイン」という呼び名をよく聞くようになってきましたし、マルセル・ラピエールが"ナチュラルワインの父"と称されていることも知ったのです。「ナチュラルワイン」という呼び名が浸透してくる10年以上前から、マルセル・ラピエールのワインに出会っていて、美味しいと感じていたことは大きかったですね。おそらく無意識に、有機栽培やナチュラルな醸造への可能性を感じていたのだと思います。ちなみに写真は1996年3月ごろ、フランスに3週間ほどフィールドワークで滞在したとき、フランス南西部のトゥルサンにて。ナチュラル志向の料理で有名なシェフのミッシェル・ゲラールのレストランが所有しているワイナリー『シャトー・ド・バッシャン』を訪れたときに、醸造長と撮ったものです。
菊地:まだナチュラルワインが登場しはじめるごく初期の90年代から、その味わいそのものに惹かれていたということですね!その後、日本にフランスのナチュラルワインが輸入され始めますね。今もナチュラルワインの輸入をされているフランソワ・デュマさんが、1997年に始めて有機栽培のビオワインを日本に持ってくる会社を作った、と語ってくださいました。
福田:その後、2000年ごろから日本でも徐々に自然派ワインが浸透していって、"ナチュラルワインの父"マルセル・ラピエールの名も耳にするようになってきました。はっきりと"自然派ワイン"という言葉を使った本が登場したのが2004年ごろです。このころ、フランスの小規模ワイナリーの自然派ワインは、本国で売れなくてかなり苦しい時代だったのですが、実はそれを買い支えてきたのは日本のユーザーだったんです。
菊地:ナチュール先進国のフランスでは売れていなくて、日本で売れていたのですか?
福田:おそらく、当時のフランスの消費者は、テクニカルな造りでしっかりしている重めのワインを、日常的に飲むのにすっかり慣れてしまっていたのではないでしょうか。昔ながらの自然な造りのワインがちょうど失われつつあった時代で、その味を知らずにケミカルで育っている。だから、基準から外れた自然派ワインを飲んで「美味しい」と思える感性が少なかったのかもしれません。
菊地:確かにナチュールワインの味わいは独特ですし、アルコール度も低めで軽いですよね。
福田:独特の味わいをブレットといって、嫌う文化も、欧米では根強いですよね。でも結局はバランス。ブレットがたくさんあっても、トータルのバランスがよければ良いワインになりますし、高い評価も得られるんです。どのみち、日本ではまだまだワインは嗜好品といった受け止められ方でしたし、2000年当時はやっと日常で毎日の食卓にワインを合わせるという習慣が浸透し始めたばかり。ナチュラルから飲み始めたという人もたくさんいたでしょうし、なによりも日本の食事を邪魔することなく楽しめる。先入観に囚われず、素直に"ナチュラルワインが美味しい"と感じて、フランス人以上に自然派ワインを受け入れたのだと思います。

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菊地:日本人に輸入のナチュラルワインがすんなり受け入れられていたというベースがあってこそ、日本ワインの造り手も自然派にシフトできたのかもしれませんね。後半ではいよいよ、日本国内の日本ワインについて伺います。
<後編に続く>

wa-syuバイヤーがおすすめする、この冬の飲みたいナチュラルワインとは?

いま、世界的にも注目するナチュラルワイン。全国のワイナリーから、選りすぐりの銘柄をwa-syuがセレクト。さまざまな料理と楽しめるおすすめ銘柄をご紹介します。

写真左から:
MBA cuvee city farm 2018 エムビーエーキュベ シティ ファーム/3,740yen(税込)
ヌメロ ドゥエ 2020/4,180yen(税込)
hana 2020/SOLD OUT
Vegan 2021/7,700yen(税込)
あんなこんなそんな 2021[375ml]/1,980yen(税込)

早稲田大学・福田育弘教授に特別インタビュー!
ナチュラル系日本ワインの風景 <後編>

「日本人にはナチュラルな味を素直に美味しいと思える感性があります」。人気が高まるナチュラル系ワインを深掘りする、早稲田大学・福田教授の特別講義!面白くてためになる、日仏ワイン文化を語る独占インタビューの後編です。

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PROFILE
福田育弘(ふくだいくひろ)
早稲田大学教育・総合科学学術院 教育学部複合文化学科教授

1955年名古屋市生まれ。1985年から88年まで、フランス政府給費留学生としてパリに留学。その後もたびたびフランスに渡り、ワインを中心とした日本とフランスの食文化について研究。著書に『新・ワイン学入門』(集英社インターナショナル、2015年)、『ともに食べるということー共食にみる日本人の感性』(教育評論社、2021年)など多数。

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INTERVIEWER 菊地良実(きくちよしみ)/wa-syuバイヤー

INTERVIEWER
菊地良実(きくちよしみ)/wa-syuバイヤー

日本ワインの楽しさを提案するオンラインショップ『wa-syu OFFICIAL ONLINE SHOP』立ち上げよりバイヤーとして参加。一般社団法人日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。日本ワインのシーンをもっと盛り上げるべく奮闘中。

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ナチュラルワインの魅力と味わい!日本ワインのキーパーソンに聞く、ナチュラルワインのいま。

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